かけぬける青空は、きっと君とつながっている
そうして、大将から渋く格好いい蛇腹傘を借りて、民宿へと続く長い坂道を上りはじめる。
手には財布と男物の服を持っている、という、何か訳あり感が漂うあたしの姿を見ても、それには触れない大将の心遣いに泣けてしまう。
けれど、おばあちゃんも、この雨で心配しているだろうし、とりあえずは、いったん帰ろう、そう、無理やりにでも気持ちを持ち直していったあたしは、間宮さんの服だけは濡れないように胸の前に抱え、雨の中を進んでいった。
「大丈夫だったかい、菜月」
民宿の玄関を開けると、帰りを待ち構えていたおばあちゃんに開口一番そう聞かれ、あたしは外に向けて傘についた雨粒を払い落とすと、努めて明るい調子で答える。
「うん。魚勝さんの大将が傘を貸してくれて、大丈夫だったよ。仕入れのついでに返してくれればいいって。いきなり降ってきたから、どうしようって思ってたけど、助かったよ」
「そうかい。あれ、航君は? 出かけたようだったし、てっきり一緒だと思ったんだけど」
「ちょっと、ね」
間宮さんのことを伝えようかどうか、一瞬、迷ったけれど、これ以上の心配はかけさせられないと思ったあたしは、少しごまかしてしまう。