かけぬける青空は、きっと君とつながっている
運が良かった、としか、言いようがない。
近所のおじさんがスクーターで通りかかり、ふらふらと家の周りを歩き回っていた俺に、大津波警報が発令されたことと、一刻も早くここから逃げることを教えてくれたのだった。
俺の家は、市の中心部に位置していて、家から海までは数キロという距離があった。
そのため、さすがにここまで津波は来ないだろう、という考えもあってか、近所の人たちは、とりあえず様子見をしていたのかもしれない。
けれど、近所には大きな川も流れており、避難を呼びかけてくれたおじさんは、津波が川をさかのぼって押し寄せてくる危険がある、と、そう教えてくれたのだと思う。
「まずは自分の命を守れ。その格好のままでいい。とにかく高い場所を目指せ!早く!」
「はいっ」
有無を言わせぬ強い口調で命令され、俺は、本当に着の身着のままの格好で走りはじめた。
充電器に差してあった携帯は、充電が終わっていて、さっき家の中に戻ったとき、ダウンジャケットのポケットの中に入れてある。
財布と家の鍵も一応持ってはいたが、おじさんの口調から、家の鍵をかけに戻っている暇はないと踏んだ俺は、あとのことはおじさんに任せることにし、徐々に避難をはじめているほかの人たちに混じり、高い場所を目指していった。