かけぬける青空は、きっと君とつながっている
 
チリ地震津波というのは、昭和の三陸を襲った津波で、その津波では多くの死者が出たという話だったけれど、俺も詳しくは知らなかった。

ただ、そのときのことを覚えている人、経験した人の多くは、今の言葉の通り、高齢化していて、俺をはじめとして、チリ地震津波を知らない今の人たちは、津波の本当の恐ろしさが分からない、というのが、実際のところなのだ。


だから、世間話をしながら、のんびり歩いているこの中年の女性たちは、ここまで本当に津波は来るのだろうか、と、いまだ半信半疑。

その話を聞いている俺もまた、おじさんに急かされ走っていた足は徐々に歩きに変わり、次第に、のらりくらりとした歩調になっていった。


やっぱり、家の鍵だけでもかけに戻るか……。

そう思いはじめたところに「私、ちょっと家に戻ろうかしら」という声が聞こえた。


「何を言うか!戻ったら死ぬぞ!」

「わ、分かりましたよ……」


しかし、俺の後ろをゆっくり、けれど精一杯の早足で歩いている、女性のお姑さんと思われるばあさんが強い口調でたしなめ、彼女とともに俺も家に戻ることを思いとどまる。

ばあさんと女性との間には、地震や、その後、来ると思われる津波に対する温度差があり、死ぬぞと言われた直後でも、隣の女性と肩をすくめあっている姿が横目に見えた。
 
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