君に本物を。



「ごめん」

利樹が斜め下を見ながら

左手で自分の服を引っ張る

これは気まずい時によく利樹がとる行動

あえてこれにも答えなかった

沈黙がさらに空気を悪くする

「あん時はごめん。助けてやれんで。

情けないな、藤井の言うとおりにしか動けん

かった」

利樹が斜め下を向いたまま呟く

胸がぎゅぅっと苦しくなった

悪いのは利樹じゃないのに…

藤井たちなのに………



「ううん。悪いのは利樹じゃない、」

あたしは小さな声で続ける

「悪いのは転校とかしてにげたあゆだょ」

「ちげえっ!それはちげえだろ」

利樹が声を荒げる

誰だよ、お前w

キャラ違うょ利樹さんw

なんて能天気なことを考えながらも

利樹の優しさに胸が熱くなった

それでもやっぱり

あたしの声は冷めているようで

「利樹、声デカい。みんな見てる」

だからやめて?と見つめた先の

利樹は少し寂しそうに見えた

なんで普通に喋れないかな、あたし

なんて考えていた

その時だった

「りーきー?お前誰と話しよん?彼女かぁー?」

そう言ってやつは利樹に近づいてきた

声でわかる。わからないわけない。

心臓が痛くなる。体が動かなくなる。

いろんなことがフラッシュバックして

ヘンな汗が出てくる。

「やだ、こんで、いや、いや」

あたしは首をふりながら後ずさる。

声が震えているのが自分でもわかった。

利樹がそんなあたしを見て

驚いて、悲しい顔をして、

「じゃぁな、楠木っ」

一言だけ言ってやつの方へと走っていった

利樹とやつの会話が聞こえる。

その声はだんだんと遠のいていった。






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