俺様編集者に翻弄されています!
 氷室と映画に行った日、悠里は何年かぶりのスカートにコンタクトだったが、あの時氷室は特にそれについて何も触れていなかったことを思い出した。


「氷室さんってアメリカンな感じなのに、今日は可愛いねー! とか、いつ見ても綺麗だ~ハニー! とかないんですね」


「アメリカンって感じって言っても、俺はアメリカ人じゃないからな、なに? 俺にそんな風に言って欲しいわけ?」


「うぐ……」

(あの時、私にとっては精一杯のお洒落だったんだけどな……)

 かえって氷室に茶化されている気になって、悠里は言葉がでなくなった。


「べ、別に、そんな歯の浮くようなセリフ言われたって、なんとも思いませんよだ」


 プロットを持ってくるだけの用事だと思って、今日の悠里はいつものジーンズにスニーカーに髪は無造作に束ねて眼鏡のイモルックだ。

(なんだか魔法がとけちゃったって感じ……)

 コンタクトにスカートに整えた髪に、あの時は普段と違う自分に多少高揚していたのだろう。けれど、氷室に何も思われていなかったことに肩透かしをくらった気分になった。

(な、なんで私ちょっとへこみ気味になってるの……! 昨日、無理しすぎて疲れてるんだきっと……)

 悠里はブンブンと首を大きく振って、思い直した。

「お前って、なんでそう短時間でいろんな顔ができるわけ? 面白すぎ」

 氷室が小さく噴き出したその時―――。
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