俺様編集者に翻弄されています!
「こら、氷室、作家さんに対してはちゃんと「先生」って呼べと言っただろう」


 横から「艶人」の編集長である北村が、にこにこ顔で声をかけてきた。


「来月からユーリ先生の連載楽しみにしてますよ。氷室、今日は午後から「艶人」の会議だから忘れんなよ」


「なっ! その会議は明日の予定じゃ……おっと」

 氷室は慌てて北村に向き直ると、机から書類が落ちそうになって瞬時に押さえた。


「携帯の電源切れてたから連絡つかなかった。美岬君が悪い」


 北村は諦めろ、とでも言わんばかりにぽんぽんと氷室の肩を叩いてにんまりした。


「下の名前で呼ぶなって……あれだけ―――」


「おお、怖っ! じゃ、先生、失礼します」


 一際低い声で氷室が唸ると、北村は両手をホールドアップして、けらけら笑いながら部屋を後にした。


「氷室さん、北村編集長と仲がいいんですね」


「は? どこが?」


 先ほどの短いやり取りを見ていて、北村と氷室が長い付き合いの仲なのだろうと感じた。


「あいつとは、大学が同じだったってだけで、仲がいいとはまた話は別だな……ほら、ミーティングルームに行くぞ」

「え? じゃあ、北村編集長も留学か何かで―――」


「いいから行くぞ」

 氷室はコーヒーをひと口飲むと席を立った―――。


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