俺様編集者に翻弄されています!
「ほんと、鈍くせぇな……」


 氷室はやれやれといった感じで、足元に落ちていた文庫本を拾い上げた。


「室井慶次……」


「……え? あ、ありがとうございます。氷室さんはもちろん知ってますよねこの作家さん、私、中学の頃からずっとファンで読んでるんですよ」


「ふぅん」


 悠里の浮き立ったテンションとは逆に、氷室は冷めた目で本を眺めて悠里に手渡した。


「お前、そういうの好きなわけ?」


「え、えぇ……」


 なんとなく棘を感じる氷室の口調に悠里は戸惑いを覚えた。先程まで、あんなに大笑いしていた氷室の表情が曇っている。そう思うと、悠里の胸がチクリとした。


「もしかして、氷室さん、室井慶次が嫌い……とか?」


「別に、好きとか嫌いとか以前に……興味ない」


「そ、そうですか……」


 氷室から手渡された本がやけに冷たく感じる。


(興味ないって……私と同じ小説家なのに……)


 しかも自分が好きな小説家を全面否定されてしまい、悠里の心が重く沈んだ。
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