俺様編集者に翻弄されています!
「あぁ? お前なに馬鹿なこと言ってんだ? ったく、血が滲んでるし……なんでこんなになるまで放っておいたんだよ?」

「うぅ……」


 傷は昔から空気に触れさせて乾燥させるものだと誰かに言われ、悠里は特に手当もせずそのままにしていた。またはずぼらともいう。


「痛いか?」


「あ、あの……大丈夫ですから」


 氷室は悠里の足首を軽く持ち上げて、傷を痛々しそうに見ている。悠里はその視線に妙な羞恥心を覚えた。

(もう、見ないで……)


「ちょっと待ってな」


「え……?」

 悠里が顔を上げ、氷室を見上げた時には既に部屋から出て行ったあとだった。


 部屋にひとり残され、はぁと肩の力を抜くと再び沈黙が訪れた。降り注ぐ春の暖かな日差しがどことなく心地いい―――。
< 112 / 340 >

この作品をシェア

pagetop