俺様編集者に翻弄されています!
「お前の原稿をこっちから取りに行くのも俺の仕事だからな。昨日、車買ったから試運転がてら近いうち行くかもな」


「……へ? 車!?」


 昨日新しい洋服買った。みたいなノリでさらりと言う氷室に、悠里は目が点になった。



「でも、六本木のホテルからだと結構道も混んでるし……」


「昨日、管理会社に委託してた白金の自宅マンション引き取ってきた」


「白っ……白金!? 氷室さん、シロガネーゼですか!」


 悠里が興奮して氷室に向き直る。


(白金って言ったら、超セレブな街で有名なあの白金だよね……?)

 悠里はテレビでしか観たことのない街に憧れを馳せた。


「N.Yに住んでいる間、なにげに日本への出張が多かったからな、だったら自分のマンションをこっちに買った方が、慣れないホテルに滞在するよりもいい」

 

「あ、あの……渡米中、誰かに貸すとかしなかったんですか?」


「自分の買った部屋に誰か住むなんてありえないだろ」


 氷室は誰かに自分のものを奪われたり、所有されたりするのが大嫌いな部類の人間なのだろう、と悠里は氷室の内面を垣間見た気がした。そう思うと氷室は改めて厄介な気質に思えた。


「ご実家は東京じゃないんですか?」


「……、実家は世田谷」


 一瞬、小さな間があったような気がしして、怪訝に思っていると、氷室がさりげなく視線を逸らした。そんな氷室の表情も眉間に皺をよせ、どことなく険しい。


 そんな様子に悠里はそれ以上、何も質問することはできなかった―――。
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