俺様編集者に翻弄されています!
「だ、だめ! そんなの! そういうのは、ちゃんと好きな人としたいから!」


 慌てて悠里は身を捩った。すると氷室は一瞬面食らったような顔をしたが、再び不敵に鼻で笑った。

「真面目に反応すんなって、どうせ冗談なんだから」

「冗談……」

(そ、そうだよね……なにムキになってんだろ私)


 氷室は悠里の頭をぐちゃぐちゃと撫でると、身を起こして時間を確認した。


「会社に戻る。原稿進めておけ、それから鍵はかけとけよ? 変な奴が入ってくるかもしれねぇから」


「あ、は、はい……」

(変な人って、氷室さんも十分に変な人だよね……)

 と、思わず口をついて出てしまいそうになるのを抑えて、仕事の顔に戻ってしまった氷室を少し惜しむように、悠里は部屋を出て行くその背中を見送った―――。

「はぁぁ……」

 氷室が出て行った部屋に再び沈黙が訪れる。

 ベッドに押し倒された。というのは少々ニュアンスが違うが、悠里はあの時の感覚を思い出していた。全身に伝わる氷室の熱に、悠里の頬がだらしなく緩み始める―――。


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