俺様編集者に翻弄されています!
 通称ナオママ、本名木村直樹。

 それが今、氷室のそばでくねくね腰をくねらせて女装をした男の名前だった。


 氷室とナオママは幼馴染で、小中まで一緒の学校だった。

 卒業してからもお互いなんとなく交流し続け、気がつけば二十年以上の付き合いになっていた。

 ナオママは気さくで、真面目なくせに柔軟な性格が氷室は気に入っていた。

 けれど、ナオママがイギリスの大学から帰国してきた時には何故かこんな風貌になっていたのだ。そして、ある時―――。

『私! ずっと前から美岬のことが好きだったの……でもね、最近気づいたの、それって恋情じゃないってことに』

 ナオママが言ったセリフは忘れもせずに心の中に残っている。人生初の男からの告白に、その時氷室はみっともなく狼狽えた。けれど、それが恋情ではないとわかると、腰が砕けるような安堵感に見舞われた。そして、男でも女でもお前はお前だ。と諭した時は、せっついて号泣された。


 ナオママは昔から文武両道で優秀だった。いずれは経営者にでもなるだろうと思っていたが、こんな形で経営者になるとは思ってもみなかった。

 氷室は今更のように、ナオママと自分の過去を回想するとフンフンと鼻歌を歌いながらカクテルを作っているナオママをチラリと見た。そんな視線を素早く察知して、ナオママが氷室に向き直る。
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