俺様編集者に翻弄されています!
 数回呼び出しコールが鳴って氷室が電話に出た。


『なんだ? お前か』


最初から相手が悠里だとわかってたからか、氷室はぶっきらぼうな声を出す。


「氷室さん、この前の原稿の修正どうでした?」


『あぁ、悪い……今日中にチェック入れたやつをデータで送る。実はまだまとめてない』


 電話で話している間も何か作業をしているのか、なんとなく忙しなさが伝わって来る。


「私、今から出かけるんで、その帰りにでも出版社に寄ります。メモ紙でもいいんで置いておいてくれれば取りに行きますよ」


『そうか、それでいいなら……夕方には間に合わせる。これから別件で出かけなきゃならないんだ』


「え……?」


『俺がいなくても、誰かしらに預けてわかるようにしておく』


「……はい、じゃあ」


(なんだ、氷室さん会社にいないんだ……)

『あ、そうだ、ちょっと待て』


 悠里が電話を切ろうとすると、氷室が何か思い出したような口調で引き止めた。


『来週うちの出版社主催の謝恩パーティがあるんだよ』


「え……?」


 悠里が執筆業について以来最も苦手とするイベント―――。

 それは出版社が年に数回主催するパーティだった。


 過去に何度か仮病を使って欠席したこともあったが、加奈に看破されて無理矢理引きずられるようにして連れて行かれたこともあった。


「そ、それは……」


『あぁ、今回の謝恩パーティは「艶人」の創刊十周年記念も兼ねてるから、お前は否応なしに出席だな』


「えーっと……」


『まさか、欠席します。とか言わないよな?』


悠里は携帯片手に撃沈しながら絶望的な気分になった。氷室が電話口の向こうでニヤリと笑っているのが目に浮かぶようだ。


「ぜ、是非参加させていただきます……」




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