俺様編集者に翻弄されています!
 悠里は電話を切ると、あーっと盛大に声を出しながらフローリングに転がった。

(謝恩会……謝恩会……謝恩会、美味しいものは食べられる、でもでも―――)

 悠里はむくっと起き上がって、密かに買ったメイク用の鏡の前に自分の顔を映し出した。


 芸能人も御用達のサイドにライトがついた魔法の鏡―――。

 その謳い文句に乗せられてつい先日購入してしまった。ライトに照らされると、化粧をしていなくても不思議と肌色がよく見える。耳元で妄想執事が“美しいです”と囁いている気がしたが、ライトのスイッチを消すと一気に現実を突きつけてくるという、えげつない鏡でもある。


(やっぱり、元が悪いからな……)



 先ほど氷室が言っていた謝恩パーティのことがぐるぐる脳裏を巡回して、悠里は頭を抱え込んだ。パーティに行っても知らない作家や漫画家、書店の店長で顔見知りなどいない。


 悠里は社交的な性格ではない。その場で出会った同業者同士が和気藹々と話しに花を咲かせているのを横目に、ひとりでいつも隅の方で食事をつついているタイプだった。


 今回は謝恩会を兼ねた「艶人」の記念パーティなら欠席は無理だ。


「はぁぁ……気が重い」


 悠里は重たいため息をついて、先日購入した雑誌をなんとなく広げてみた。
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