俺様編集者に翻弄されています!
 後藤エミリー。

 
 悠里の目の前に立っていたのは、言わずと知れた大海出版のエース作家だった。エミリーはにっこり笑いながら自分の毛先を指で弄んでいる。


(タイミング悪すぎでしょ……)


 悠里はこの業界に入ってから、エミリーに何度か会う機会があった。エミリーは派手好きで、毎回違う男をまるでアクセサリーのように連れていた。同業でも生きる世界が違う人間だと、悠里は無意識に彼女を避けるようになっていた。
 
 


「お久しぶりね、ユーリさん。今日はどうしたのかしら?」


「え、えっと……ただ書類を取りに来ただけです」


 同席を許可した覚えもないのに、エミリーは無言で悠里の向かい側に座った。


 改めて近くで見るとエミリーは年甲斐にもなくケバかった。年を化粧で懸命に誤魔化そうとしているのがわかる。けれど、なぜか女として妖艶な雰囲気が漂っているのが解せない。

 
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