俺様編集者に翻弄されています！
「ユーリさんの「忘我の愛」毎月楽しませていただいてるわ、なかなか面白い話ね」


　エミリーは作家歴が三十年くらいのベテランだ。けれど、面白いと言われても心底そう思っているわけではないのは悠里にもわかる。


いわゆる社交辞令というやつだった。


「私の「皇帝溺愛語り」も読んでくれてるかしら？」

　エミリーは目を細めながら、ふふんと小さくなっている悠里を見た。


「皇帝溺愛語り」はエミリーが今、「艶人」で連載している小説で、中華文明を舞台とした恋愛小説だ。


　初めてそのタイトルを見た時、とにかくセンスが悪いと思ったの覚えている。率直に面白くないと告げたら、この高慢な顔がどんな風になるだろうかと、よからぬ想像をしてしまう。



「え、あ、はい……冒頭の部分だけですけど……」


　正直、今は他の作家が書いた小説を読んで勉強する暇はなかった。自分の小説を集中して執筆している時期には、影響されないようになるべく他の作品を読まないようにしていた。


「あら、そう……読んで頂けてないのね」


　悠里の返答にエミリーが眉を顰めた。先程まで小馬鹿にしたような笑いを浮かべていたのに、徐々に雲行きが怪しくなる。


（あ……まずい）


　悠里は正直に答えてから後悔した。この女は完全完璧主義の高慢な自信家だということを忘れていた。


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