俺様編集者に翻弄されています!
「なんだここにいたのか」


「あら、氷室さん、偶然ね。今、出先から戻ってきたの?」


 エミリーは歩き出した足を止め、氷室の傍へルンルンで寄ると、気安く腕を絡ませた。あからさまに嫌悪するような氷室の表情などお構いなしにエミリーはぐいっと豊満な胸元をしつけている。


「あの、後藤先生、あんまりくっつかないでもらえますか? 香水の匂いつくと困るんで」


「ふふ、はっきりしてらっしゃるのね。やっぱり編集者はこういう方でなくちゃだめね、ねぇユーリ先生もそう思いません?」

(……私のことなんか放っておいて欲しいのに、声かけないで……じゃなきゃ、氷室さんに、泣いてることがバレちゃう……)


 話をふられて、悠里は咄嗟に俯いた。


「……私、帰ります」


 やっと喉から絞り出された声は震えていた。そんな声に、氷室の表情が曇る。


「おい、ちょ、待てって……!」


 悠里は荷物を全部引っつかんでカフェテリアを飛び出すとエミリーの笑う声が針のように背中を刺した。
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