俺様編集者に翻弄されています!
 悠里の脳裏にぐるぐると旋回する読者の声。

 早く家に帰って原稿を進めなければ―――。

 と、気持ちは焦るがこんな精神状態で何が書けるだろうかと思うと、情けなさで胸が締め付けられる。


 悠里が無我夢中で大海出版を勢いよく飛び出すと、既に外は日が暮れていた。


(明るくなくてよかった……こんな涙でぐちゃぐちゃな顔、誰にも見られたくない……)


 下を向きながらスタスタと人の波を掻い潜っていると、すれ違う人の話し声でさえ自分の小説のことを話題にしているのではないかと自意識過剰になってしまう。


(いやだ! 聞きたくない!)



 ―――その時。
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