俺様編集者に翻弄されています!
 同時にふわりと瞼に生暖かい感触がした気がして、悠里は数回瞬きをした。

(ひ、氷室さん……?)


 微動だにできない悠里をクスリと笑って、氷室が涙を掬うようにもう一度悠里の瞼にキスをした。


(う……そ……?)


「泣きたかったら泣けよ、ただし今だけだ……わかったな?」


「あ……」


 次の瞬間、悠里は腕を取られて温かな氷室の胸の中に抱き込まれた。

 身に沁みるような柔らかな体温に、悠里は安堵感を覚えながらも声を殺すことも忘れて泣きじゃくった。


(私、みっともない、けれど今だけは……きっと許してくれる)



「ふっ……ガキみたいだな、お前」


 まるで子供をあやすような声音が心地よく耳に響く。


 敢えて弱い部分に触れ、叱咤するのは氷室が親身になってくれている証拠だ。

(きっと、氷室さんと一緒なら、いい小説を書き続けていくことができるに違いない)

 悠里はそう思いを新たにした。


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