俺様編集者に翻弄されています!
「氷室さん……」


 ぽんぽんと数回頭を軽く叩かれて、氷室の手がゆっくり悠里の頭を撫で下ろした。


「なんだ?」


「は、鼻水が服についちゃいました……」

 悠里がそう言うと、ぽんぽんと宥めてい氷室の手の動きが固まった。今まで穏やかだった表情が、一瞬で引きつった。

「なっ……! お前なぁ、ほんと……」


 けれど、仕方のないやつ、と言うように氷室はすぐに顔を柔らかく歪めた。



「すみません……」


「色気のないやつ」


「ご、ごもっともです……」


 ひとしきり泣き、そして面目なくて俯いていると、クスクスと笑う声がして目線を上げた。


「ぷっ……あはは」

 氷室がさらに声を立てて笑い出すと、悠里は何がおかしかったのかと思い返した。人前で泣いたことに対してなのか、鼻水をつけたことなのか、まったく検討がつかない。

 悠里がきょとんとしていると、不意に口に何かを押し込まれた。

「ほら」


「んっ!? これは……」


「お前はこれでも舐めてろ」


 気づけば悠里の舌の上で、その飴玉はほんのり甘酸っぱい味を巡らせながら転がっていた。その度に、悠里の気持ちも次第に落ち着きを取り戻していった。
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