俺様編集者に翻弄されています!
(甘くて、酸っぱくて、味の名前が思い出せなくて……このよくわからない感じ、氷室さんそっくり)


「ふふ……」


 そう思うと自然に笑みがこぼれてしまった。

(もう迷うのも落ち込むのも泣くのもやめよう、また落ち込んで泣きたくなる時があるかもしれない……けれど、氷室さんならどんな時もきっと傍にいてくれるよね)


 悠里はそんな気がして、軽くなっていく心に温かいものを感じた。


「あ……」


 その時、すっと氷室の手が伸びて悠里の頬に優しく触れた。その瞳はこの上なく優しくて、悠里はついうっとりと眺めてしまう。そして消え入りそうな氷室の呟きが聞こえた。


「ブサイクでも、そうやってると……案外かわいいもんだな」

 

「え……?」


 一瞬、空耳かと思って悠里はもう一度氷室に聞き返した。

「今、可愛いって言いましたよね……?」


「はぁ? 俺がブサイクにそんなこというわけないだろ」

「も、もう……! ブサイクって何回言ってるんですか?」


 お互い顔を見合わせると同時に、二人は噴き出して笑い合った。


(今の……空耳だったのかな……)



 甘酸っぱさの余韻を舌に残しながら、いつの間にか飴は消えてなくなっていた。

 そしてその飴は悠里の心の中に、恋というもう一つの味を残そうとしていた―――。
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