俺様編集者に翻弄されています!
(こ、ここは別世界!?)


 悠里は純白のテーブルクロスの上に並べられた、解読不可能なワインリストに釘づけになっていた。メニューを渡されたはいいが、馴染みのない料理ばかりで悠里は額に嫌な汗を感じた。


「ここは世界的にも有名なシェフの店だから味は確かたと思うぞ、「アルページュ」って、結構雑誌にも取り上げられてるだろ?」


 高級な雰囲気に押しつぶされてしまいそうになりながら、悠里はこわばった顔で無理矢理笑ってみせる。


「あ、あはは……いえ、ローザンホテル自体足を踏み入れたこともありませんので、ここのホテルの知識は皆無です」


(ああ、ここから逃げ出したい……! ファミレスのオムライスで丁度いい)


 そう思っているとウェイターが恭しくワインを注ぎに来た。


「あ、じ、自分でできま―――」


(そうだ、ワインは自分で注ぐものじゃないんだった! え、えっとグラスの脚をもってエレガントに……)


「あ、ありがとうございます……オホホ」


 悠里の一人芝居のような行動に、氷室は怪訝な視線を向ける。悠里は気に止めず、注がれたワイングラスを持ち、乾杯をして一気にぐっと呷った。


(よ、よし……ここまではネットで調べ尽くしてきたから完璧な流れだ……あれ?)


 見ると氷室はワインの色や香りを優雅な仕草でテイスティングしている。

 ゆっくりとした氷室の動きに、あまりにも喉が渇いていて一気飲みしてしまったグラスに視線を落とすと、恥ずかしさがこみあげてきた。

 すると―――。

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