俺様編集者に翻弄されています!
「あ、そうだ……これ、前に欲しいって言ってた資料」
氷室がグラスをテーブルにおいて、鞄の中から一冊の本を取り出した。
「あ、ありがとうございます」
この間頼んでおいた資料を受け取ると、それは希少価値の高そうな分厚い本だった。
「い、いいんですか? なんか上等な本ですけど……」
「いい、気にするな。ああ、それから、今連載してる「忘我の愛」だけど、ほぼ映画化が決まったと思っていいぜ」
「えっ!?」
思わず大きな声が出てしまい慌てて悠里は口を手で塞いだ。驚いた周りの客の視線に、悠里は小さくなる。
「ほ、ほんとですか?」
「まぁな、でも気を抜くなよ、ただでさえお前エミリーに目つけられてるんだから」
後藤エミリーの名前を聞くと一気にテンションが下がる。けれど、映画化されると聞くとそれをも凌駕する興奮が悠里を取り巻いた。
「後藤先生はどうして私を目の敵にするんでしょうか……」
「そんなの決まってる、お前の実力を認めたくないだけだ。単なるガキの嫉妬だよ、けど……そんなくだらないやっかみのせいで、才能ある作家をだめにしたくないからな」
(あの時、優しく抱きしめてくれたのは小説家として……だったんだ。そうだよね……)
悠里はそう思うと浮かれていた自分が恥ずかしくなった。それと同時に寂寥じみたものを感じる。
「氷室さん……?」
氷室の顔をよく見ると、端麗な顔の陰に若干の疲労が窺える。自分の小説の映画化企画と、他の作家との仕事で毎日寝る間もなく仕事をしているのだろう。
自分の小説を見込んで支えになってくれているのはわかっていたが、小説のためと思うと、悠里は表現し難い感情に駆られた。
(はぁぁ、どうして氷室さんはこんなに素敵なのに私は……あぁ! やめやめ! せっかくなんだから楽しまなくちゃ)
悠里は鬱々とした気分を、かぶりを振って撒き散らし、目の前の細長い棒状のものをボリボリ食べ始めた。
氷室がグラスをテーブルにおいて、鞄の中から一冊の本を取り出した。
「あ、ありがとうございます」
この間頼んでおいた資料を受け取ると、それは希少価値の高そうな分厚い本だった。
「い、いいんですか? なんか上等な本ですけど……」
「いい、気にするな。ああ、それから、今連載してる「忘我の愛」だけど、ほぼ映画化が決まったと思っていいぜ」
「えっ!?」
思わず大きな声が出てしまい慌てて悠里は口を手で塞いだ。驚いた周りの客の視線に、悠里は小さくなる。
「ほ、ほんとですか?」
「まぁな、でも気を抜くなよ、ただでさえお前エミリーに目つけられてるんだから」
後藤エミリーの名前を聞くと一気にテンションが下がる。けれど、映画化されると聞くとそれをも凌駕する興奮が悠里を取り巻いた。
「後藤先生はどうして私を目の敵にするんでしょうか……」
「そんなの決まってる、お前の実力を認めたくないだけだ。単なるガキの嫉妬だよ、けど……そんなくだらないやっかみのせいで、才能ある作家をだめにしたくないからな」
(あの時、優しく抱きしめてくれたのは小説家として……だったんだ。そうだよね……)
悠里はそう思うと浮かれていた自分が恥ずかしくなった。それと同時に寂寥じみたものを感じる。
「氷室さん……?」
氷室の顔をよく見ると、端麗な顔の陰に若干の疲労が窺える。自分の小説の映画化企画と、他の作家との仕事で毎日寝る間もなく仕事をしているのだろう。
自分の小説を見込んで支えになってくれているのはわかっていたが、小説のためと思うと、悠里は表現し難い感情に駆られた。
(はぁぁ、どうして氷室さんはこんなに素敵なのに私は……あぁ! やめやめ! せっかくなんだから楽しまなくちゃ)
悠里は鬱々とした気分を、かぶりを振って撒き散らし、目の前の細長い棒状のものをボリボリ食べ始めた。