俺様編集者に翻弄されています!
「おい」


「は、はい……?」

 見ると氷室が頬杖をつきながら、冷めた目で見据えている。


「お前、グリッシーニを知らないのか?」


「ぐ、ぐりっし……? この棒のお菓子みたいなやつですか?」


 悠里はクラッカーのような細長い棒状の食べ物を、ひょいとつまんでまじまじと目詰めた。


「ポッキーみたいにボリボリ食べんなよ、それはパンの種類でワインのつまみで出されたものだ」


「……え? これが? つまみ?」


「本来イタリアンのものだが、たまにフレンチでも出すとこがあるんだよ。こうやって、ちぎってプロシュートとかと一緒に食べるのが普通だ」



 手馴れた仕草で氷室が説明しながらちぎって、そばに置いてあったプロシュートを乗せると悠里に差し出した。

「ほら……これが正解の食べ方だ」


「は、はぁ……」


(恥ずかしすぎる……!) 


 悠里は膝の上のナプキンがくちゃくちゃになるくらい握りしめて俯いた。そんな悠里の姿を、氷室は目を細めて笑う。


「ふっ……別に、知らないものは今から知っていけばいい、そういうところ……俺に隠すな」


「で、でも―――」


「でも、は無し」


「はい……」


 悠里が差し出されたグリッシーニを受け取ると、氷室はもう一度小さく笑った。、


 それは悠里の一番好きな笑顔だった。
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