俺様編集者に翻弄されています!
「おい、待て」


 ギクリとして肩が跳ねた。


 背後から聞こえた低い声は紛れもなく氷室の声だった。


 悠里は腹をくくって俯きながら徐に振り向くと、氷室が急に肩を抱いてきた。


「え……?」


 ふわりと香るどことなくエキゾチックな匂いに、悠里の心拍数が上がっていく。先日とは違うシックなスーツ姿にも目を瞠った。


「氷室さ―――」


「アメリカから来た有名小説家たちだ。滅多にないチャンスだから、挨拶くらいしとけ」

 肩を抱かれたまま、悠里は硬直した。


「ゆ、有名小説家って言われても……顔見ただけじゃわかりませんよ……」


「「戦場の丘」とか「暗黒雲」とか知ってるだろ、アンソニー・グレンだよ。ダークな作風がちょっとお前と似てる」


「ええっ!? ア、アンソニー・グレン!?」


 アンソニー・グレンは悠里もよく知っている世界的に有名な小説家だ。細かく書かれた描写に、たまに参考文献にするくらいだった。


 その著者が自分の目の前にいると思うとにわかに信じ難かった。


「わ、わかりました」


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