俺様編集者に翻弄されています!
「待てって! どこ行くんだよ」


 後ろから半ば強引に氷室に腕を掴まれ、悠里は驚いて振り向いた。


「氷室さん……いいんです、私は私で楽しんでますから、エミリー先生のお相手してあげてください」


 氷室は一瞬困ったような顔をしたが、ふっと俯く悠里の耳元に口を寄せた。


「帰り、送ってってやるから待ってろ。それと、その服……結構似合ってる」


「え……?」


 悠里が顔を上げた時には既に氷室はエミリーに引かれて、人の群れに消えてしまっていた。


 結構似合ってる―――。


 その言葉だけが何度も何度も脳内再生される。


(照れる! 恥ずかしい! そういうことさらっと言わないで欲しい……)



 それなのにもっと自分を可愛く見せたいと思ってしまう矛盾に、頭の中がめちゃくちゃになりそうだった。



(似合ってるって言われた……初めて、氷室さんに褒められた)


 悠里はその場に立ち尽くしながら、周りの目も気にせず顔の筋肉を緩めた―――。
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