俺様編集者に翻弄されています!
 その頃――。

「美岬君、この方ね、営業部のお偉いさんなのよ、私とも懇意にさせてもらっていて今回この席で是非、営業部長さんに私の新しい担当さんを紹介して差し上げようと思って……美岬君?」


「え? あ、ああ」


 氷室は遠目に見たその光景を目にして目を瞠った。思わず我を忘れてしまうくらいに――。


 ――あの男が何故あいつと一緒にいる……?


 上機嫌に油の塊のような営業部長と喋っているエミリーをよそに、氷室はその視線の先を睨むようにして見ていた。



 ――あいつの笑顔を誰にも見られたくない。


 氷室は悠里が他の男と喋って、笑顔を向けている姿に沸き起こる感情を押し殺すことで必死だった。今、すぐにこの場を離れて、悠里の傍へ行くべきか考えた。が、エミリーと今一緒にいる営業部長にユーリという作家の名前を売っておくことは今自分がすべき最優先事項だと、そう氷室は判断した。
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