俺様編集者に翻弄されています!
 ニューヨークにいた頃、氷室は自由自適に仕事をそつなくこなし、編集部の中ではデキる男の部類に属していた。

 今でもそうだと思いたいが日本に帰国してからというもの、自分の中の歯車がずれ始めているのを感じずにはいられなかった。


 特に悠里と出会ってからは―――。



「美岬は強くもないけど、弱くもないわ。それは私が一番良く知ってる。でもね、完璧な男ほどクソつまんないものはないわよ?」


 ナオママはそういうと、ケラケラ笑いながら雄々しくビールをグビグビ飲み干した。


「それで? どうして暴走しちゃったわけ?」


 ナオママはまるでラズベリーを酒のつまみのように口に運んでいる。

 氷室は短くなった煙草を灰皿に押し付けて、紡ぐ言葉をしばらく考えた。


「あいつが宮森と接触しただけで頭に血がのぼった。絶対に会わせたくないやつだったからな、けど……あの女は全然わかってない、まぁ……冷静に考えたら、ただ宮森に取られるのが嫌だっただけかもな。あいつは、あくまでも俺の作家だ」


「ああぁん、エゴイストね、そういうのゾクゾクしちゃうわ」


「茶化すな」


 そうは言いつつも、実際ナオママの明るい性格には何度も助けられた。

 氷室はグラスの中に残ったラズベリージンを、弄ぶようにグラスの中で揺らした。
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