俺様編集者に翻弄されています!
 昨夜、何度も遅刻するなと加奈に念を押されて何度も電話がかかってきた。

悠里はおかげで寝たのか寝てないのかわからないような気だるさで、結局一時間も早く空港についてしまった。



(暇だな……そうだ、人間観察でもしよう)



 これも悠里独特のクセのようなもので、いつも待ち合わせに早く着いたら周りにいるカップルや老夫婦や学生の団体等を眺めてはネタになるようなシーンを探していた。


 悠里が視線を巡らせていると、その先に涙ぐむ女性とそれを宥める男性の姿が見えた。


(喧嘩かな……? うーん、でも違うみたい……あ、なんかいい文章浮かんだ!)


 悠里はすかさずポケットから小さなメモ帳を取り出して、ふと頭に浮かんだ文章を書き留めた。

我ながらいい文章だと満足げにひとり頷いて、悠里は鞄の中から「大海出版 氷室美岬様」とでかでかと書かれた恥ずかしいボードを首から下げて待合い席の隅に腰を下ろした。
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