俺様編集者に翻弄されています!
「あいつ、好きな男とじゃなきゃしたくないって前に言ってたことがあったんだ。それを俺が無理矢理奪ったもんだから泣いてたんだなきっと」


「えー! 私なら美岬みたいな美男子に強引にキスされちゃったらもうイキまくりだけど? うふふ」



 そんなナオママの下衆な言葉に、氷室は大きくため息をついた。


「ねぇ、ちょっとマリナちゃん。あれ、持ってきてくれない?」

 

 ナオママがブリブリの店員に何か声をかけると、その店員がテーブルの上にケーキを持ってきた。それは、いつぞやナオママが氷室のために作ったケーキと同じ、瑞々しいラズベリーがちょこんとピンクのクリームに乗っかったケーキだった。



「ほら、みーくんの好きなフランボワーズケーキよ、これでも食べて元気だしなさい」


「おい、ガキの頃のあだ名で呼ぶなよ……」


 ラズベリーの果汁が練りこまれたクリームに、ふわふわのスポンジの間にはフレッシュラズベリーが挟み込まれている。不本意だったが、氷室はこのケーキが結構好きだった。


 氷室はフォークですくって口に運ぶと甘い味が広がり、ほんのひとときでも気持ちが和らいでいくのを感じた―――。





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