俺様編集者に翻弄されています!
 たまたま出版社に用事があって、その帰りに立ち寄ったのが通い始めたきっかけだったが、行きつけの喫茶店は奇しくも大海出版のそばだった。

 クラシックな内装に、悠里好みのコーヒーが出てくるのがお気に入りだった。

(氷室さん、何してるかな……って、仕事に決まってるよね)


 大海出版を思うと、自然と氷室のことを考えてしまう。


 あれから数週間たったが、お互い特に何もなかったかのように接していた。

 あの日の夜のことはもう忘れてしまったのだろうか、それとも敢えて思い出さないようにしているのか、いずれにしろ自分の気持ちには応えてはくれないだろうと、もう何度も氷室への気持ちを抑えたかわからなかった。


 外に出るとジリジリとした日差しが悠里を照りつけ、目を細めると透き通るような青空が広がっていた。

 最近は家にこもって原稿に追われていたせいで、コンビニに行く以外に外に出る機会がなかった。



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