俺様編集者に翻弄されています！
「あ、あの……私に会いたかった人って……」


「ああ、あいつだ」


　氷室は煙草の煙を悠里にかからないように、顔を背けながら吐き出すと、フリフリのピンクのエプロン姿のナオママを指差して言った。


「インパクトは強烈だけど、別にとって食いやしないから安心しろ」


「は、はぁ……」


　初めてのオカマバーに、悠里は新鮮なものを感じた。

　氷室の幼馴染が経営している店とはいえ、こういう店に連れて来ること自体意外に思えた。


「あいつ、ほんと昔からお前の小説よく読んでるんだぜ？　妄信的ファンだ。あとでサインしてやってくれ……きっと一緒に寝るくらい泣いて喜ぶから」


「はい」


　胸の中にほっこり温かいものを感じて悠里は思わず微笑んだ。


「……？　どうしたんですか？　私の顔なんてじっと見て」


　氷室にじっと見つめられて不思議に思ってきょとんとしていると、氷室は弾かれたように目を逸らした。


「べ、別に、お前もやっと俺の横に並んで酒を飲んでも、恥ずかしくない程には成長したなって思っただけだ」


　ほんの少し赤みを帯びた頬に悠里はドキリとして心臓が波打った。
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