俺様編集者に翻弄されています!
「い、いただきます」


 悠里は素早くフォークを握ると、スポンジを割って口にケーキを運んだ。


(あぁ、この味……氷室さんだ……なんか落ち着く)


 ラズベリーの風味が鼻から抜けると、甘くて蕩けそうになった。


「美味しい!」


「そうでしょ、そうでしょ! ラズベリーは美岬の大好物なのよ! ニューヨークから帰国する前からそのレシピ考えてたの、帰ってきたら絶対食べてもらおうって思ってね! なにせフランボワーズは恋の味だもの、ね」


 ナオママはカウンターに前のめりになり、悠里に向かってウィンクでアピールした。


「恋の……味……?」


 この薄づきのピンクのラズベリークリームが恋の甘さを思わせる。


 そして、切なく酸っぱい恋も―――。


(恋の味……か、そうかもしれない……)


 このフランボワーズケーキのようにただ甘くて蕩けそうな恋だったらいい。けれど、現実はまるで違う。


 実際の切ない現状をその甘い味で宥められているような感覚に、悠里は氷室のことを考えれば考えるほどやるせなくなっていた―――。

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