俺様編集者に翻弄されています!
(こんな時間に、都庁になんの用事かな……)


 沈黙のエレベーターの中で悠里は悶々と考えていた。

 隣でカップルがいちゃついていても今の悠里に妄想する余裕はなかった。

 そしてエレベーターは展望室というところで停まった。



「この時間まで開室してる展望台は都心でもここだけなんだ」


「わぁ……すごい」


 エレベーターから降りて少し歩くと、ガラス越しに広がるパノラマ夜景に悠里は思わず感嘆の声が漏れた。

 首都高速が光のリボンのように連なり、どこまでも続く光の粒はまるで絨毯のようだった。



「ニューヨークも摩天楼が有名ですよね、いいなぁ私もいつか見てみたい……この夜景の向こうにニューヨークがあると思うと不思議な感じですね」

 テレビや雑誌などでしか見たことがない有名な摩天楼を思い浮かべて、悠里は氷室の住んでいた街に思いを馳せた。


「ああ、そうだな……ハドソン川に浮かび上がる夜景なんて最高に綺麗だ。ニューヨークに住んでる頃は、よく川沿いのベンチで夜景を見ながら静かに本を読んでたな……けど、俺はここの夜景も嫌いじゃない」


 細く目を細めながら氷室はどことなく非力に笑った。その笑いに、悠里は直感的になにか氷室が言い出そうとしているのがわかって思わず緊張が走った。


 
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