俺様編集者に翻弄されています！
「私、先日大海出版の近くにあるカフェで後藤先生と北村編集長が話してるの聞いちゃったんです。後藤先生が氷室さんを専属編集者にしたいって言ってるのも、私の担当を外して欲しいって言ってるのも……」


　これは全てあの女の思惑に違いない、それをどうしてそんな安易に受け入れてしまうのかと、悠里は憤りにもに似た感情に身体が震えた。


「きっと後藤先生の罠に―――」


「もう決まったことだ。駄々をこねたところでなにも変わらない、それにお前たち作家にとっちゃ編集者変更なんて珍しいことでもないだろ」

　悠里の言葉を遮って、氷室は冷たく言い放つ。そんな冷めた氷室に悠里の気持ちが逆なでられる。


「そういう問題じゃないんです！」


　悠里の感情的な声に氷室は目を丸くして押し黙った。

　そして、困ったような表情に変わると、悠里は益々心苦しくなった。


「氷室さん、私の「忘我の愛」の最終回読んでなにか思い当たることなかったですか？」


　悠里は気がつけば氷室を想いながら小説を書き綴っていた。

　どんなに歪んでいても根本は純愛―――。

　そんな想いが、氷室にも届けばいいと思っていた。


「私、氷室さんのおかげで変われたんです。どんなに情けない姿を晒しても、いつも励ましてくれたから、くじけそうになっても頑張ってこれたのに……」



「作家のケツを叩くのは編集者として当然だろ」


「だったら！　どうして、どうしてあの時、キスしたんですか？　どうして……作家と編集者の関係を壊すようなことしたんですか？」


「……それは」


　目線が悠里から逸らされ、氷室は小さく唇を噛んで言葉を呑み込んだ。

　そして、歪められた眉が悲痛な面持ちに変わる。
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