俺様編集者に翻弄されています！
　悠里が立ち去ったあと、氷室はひとり睨むように夜景を眺めていた。

　こんな気分の時に綺麗すぎる夜景が癪に障る。


「悠里……」


　初めてその名前を呼んだ気がした。


　色気がなくて、鈍感で、どうしようもない女の名前―――。


　いつの間にか心の中に入ってきたかと思うと、平常心をかき乱されて時には顔を見るたびに苛々してしまったこともあった。


　けれど、無邪気に笑いかける悠里の笑顔を見ると、氷室はどうしようもなく愛おしく感じてしまう自分を否めなかった。


　そんな悠里の笑顔を自分のものにしたいと思ったのはいつからだろうかと、氷室は窓ガラスの向こうに広がる夜景をぼんやり眺めながら考えた。

　こんなにも誰かを心の底から抱きしめて、何度もキスをして自分の気持ちをさらけ出したいと思った女はいなかった。

　先程、直球に気持ちをぶつけられて、氷室はらしくもなく狼狽えてしまった。

　女の告白を聞かされることなど珍しくもなかったが、悠里に「好きだ」と言われた時、心臓に矢が刺さったようなそんな感覚を覚えた。

　けれど、こんな時に限って融通の利かないプライドが氷室の感情を押し殺してしまい、悠里になにも応えることができなかった。



「最低だな……俺」


　ぽつりとつぶやきながら、自嘲を交えた乾いた笑いがこぼれた――。


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