俺様編集者に翻弄されています!
 昔、まだニューヨークで氷室が新米の編集者だった頃、駆け出しだった女流作家と立場をわきまえずに愛し合った。が、彼女の小説は自分と愛が深まるほど小説を書くことを怠り、人気が落ちていった。


 ―――あなたのそばにいると、小説が書けない……。



 最後にそう言い残して彼女は氷室の目の前から突然消えた。

 そして彼女に新しくついた担当が、その当時ニューヨークでライバル出版社に勤めていた宮森薫だったのだ。



 ―――僕に取られないようにさ、あの時みたいに……。



 ふと宮森の言葉が氷室の脳裏をかすめた。思い出すだけでも腸が煮えくり返ってしまいそうになって、眉間に皺を寄せた。


 氷室は無意識に拳を握り締めながら窓の向こうの夜景を睨みつけると、いつまでも鎮まることをしらない憤りにただ唇を噛むことしかできなかった。

「……くそ」

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