俺様編集者に翻弄されています!
 その怒りの根源は三日前のこと―――。

 宮森が悠里の担当の座を狙っているというのは、なんとなく前から薄々感づいていたが、大胆にも宮森が北村に直談判を持ちかけるとは思いもよらなかった。

 文芸に異動できるのであれば悠里の担当をやらせて欲しい。もし、それが叶わないのであれば、異動せずに悠里の小説をコミック化したい。と先日北村からそう相談された。


 
 悠里の小説のよさは文章でしか表せない、それをコミックで表現できるものかと、氷室は当然両方の条件を頑なに拒んだ。



 それは氷室のプライドにかけて絶対に避けたいことだった。


 悠里の小説を守るためにも―――。


 編集者はただ作家の小説のバックアップするだけではない、小説そのものの形を守っていかなければならない、何があってもだ。


 北村にどちらかの選択を迫られ、氷室は苦渋の決断をしたのだった――。

 回想から引き戻されると、先程と変わらない夜景が目の前に広がっている。



「それにしてもあいつ、女の目してたな……」


 必死に語りかける先程の悠里の眼差しを思い出して、氷室は口元で笑った。


 そして小さな氷室の独り言のつぶやきも、全て夜景の光に呑み込まれていった―――。
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