俺様編集者に翻弄されています!
(北村さんは氷室さんの過去を知ってるんだ……私が氷室さんに執着する本当の理由も……)


「私はローラさんみたいにはなりません。彼からも逃げたりしません」


 思いもよらず氷室の元恋人の名前を聞き、北村は驚いた顔をしたがすぐに笑顔になった。


「そうですか……しかし」


 北村が見せた笑顔も束の間、すぐに表情が曇ってしまった。そんな北村を怪訝に思っているとその口から衝撃的た言葉を告げられた。


「せっかく先生がそう言ってくれたんですけど……もう遅いんです」


「え……?」


 呆然として動きが止まっている悠里の前に、北村は白い封筒を見せた。


「まだ内容は見てないんですけどね……今朝、僕の机に置いてあった氷室からの封書です。前々から頭を冷やしたいって言ってたんですけど、自分が担当してる作家全部交代して、あのエミリー先生をも振り切って―――」



「ま、まさか! 退職届けじゃ……」


(嘘! 嘘! せっかくここまで来たのに)


 悠里は頭の中が一気に真っ白になり、何も考えられなくなってしまった。

 北村も自分の新作を気に入ってくれたようだし、もしかしたら―――。という期待が大きかった。予想だにしていなかったこの事態に悠里は混乱した。



「朝一であいつはニューヨークに立ちました」


「ニューヨーク!?」


「もう、あいつが何考えてるのかさっぱり……って、あっ! 先生!?」



 悠里は弾かれるように席を立つと、ミーティングルームを飛び出した。


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