俺様編集者に翻弄されています!
「あ、いや、なんでもない、空耳だろ?」

 氷室は何事もなかったかのように明後日の方向を見ている。


(空耳!? バッチリ聞こえた! 私のことブサイクって言ったよ今!)


「悪い、思ったことはオブラートに包む主義ないんだ俺」


 だったら空耳じゃないでしょ!? と悠里はすかさず突っ込もうと喉元まで言葉がこみ上げたが、あえてそれを呑みこんだ。

 ここで事を荒げても余計な体力を使うだけだ。


「氷室さんが着いたらそのまますぐに大海出版まで案内して欲しいって言われてるんですけど……」


 悠里はとりあえず話しの矛先を変えた。


(とにかく、この人を大海出版につれて行かなきゃ……)

 見れば見るほど氷室の不遜な態度に、悠里の不安が増していく。


「着いて早々早速仕事させる気かよ……ホテルで仮眠してから夕方にでも顔出せばいい。悪い、一服してくるからここで待ってろ」


「……はい?」


 氷室は悠里を無視して、スタスタと喫煙室へ行ってしまった。


(な、なんて自由人な人なの……!)


 悠里はそんな氷室の背中を、呼び止めることもできずに、ただ茫然と見つめることしかできなかった。
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