俺様編集者に翻弄されています!
『そういえば美岬に言ってなかったことがあって』


「なんだよ」


『私が先日、日本から帰国した際に一緒に乗り合わせた女性がいてね、たしか高峰悠里っていう名前だったのを思い出して―――』


「な、なんだって……!?」


 予想通りの反応だったのか、携帯の向こうでロディの一瞬小さく笑う声がした。


『さっきも彼女から電話がかかってきたんだけど、まさか彼女があなたの惚れた相手だったとは……』

 執拗に戻って来いとアプローチをかけられ、氷室はつい本音を口にしたことがあった。


 ―――自分の惚れた才能を持つ作家じゃないと仕事はできない。


 ロディは氷室のその言葉を覚えていて、わざと皮肉じみた口調で言った。


『惚れた相手、高峰さんなんでしょ?』


「な、何言って……俺が惚れたっていうのは、あいつの書く小説で―――」


『はぁ、美岬も子供みたいなこと言ってないで、いい加減自分の気持ちを認めたらどうかな?』


「……」


『美岬のようなやり手の編集者を、虜にしてやまない小説家がどんな方なのかと思ったけど……彼女にもとんだ意地悪をしちゃったね』


「どういうことだ……?」


『さぁ……』

 ロディはわざととぼけたフリをしてうそぶいた。わざと動揺させて面白がっているに違いない。それを察した氷室は挑発には乗らないと自制して自身を保つ。



「それで、あいつから電話があったのってどこからだ?」


『さぁ、きっと公衆電話か携帯からだったと思うけど……でも途中で電話が切れてしまって』


「切れた?」


『うん、ただ単にコイン不足ならいいんだけど……心配だよね?』


「っ!?」
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