俺様編集者に翻弄されています!
 その時―――。

「あ、すみません! あ、じゃなくて! ソ、ソーリー」


 ついぼんやりしたまま歩いて、すれ違いの男にぶつかってしまった。

悠里は我に返ると、妄想の中の氷室らしき人物が言っていた「本当に俺のことをわかっていたら」という言葉の意味を考えた。



 時計の針はすでに午後十時を指していた―――。


 どこに行くとも目的を決めずただ歩いていると、大きな川の前に出た。


 クルージングの船の照明がきらきらと夜の水面に反射して、悠里はその先にあるマンハッタンの夜景を見つめた。


宝石箱の中のような煌きが綺麗すぎて寂寥感が増した。


すると、目の周りが熱を持ち始め、視界がぼやけてくる。こみあげる感情を押し戻し、悠里はぶんぶんとかぶりを振った。


(泣いてる場合じゃない……なにがなんでも氷室さんに会わなきゃ、そして、言うの……私の編集担当は氷室さん意外考えられないって)


 引きずってでも日本に連れて帰るつもりだった。


悠里は改めて気合をいれ、マンハッタンの夜景を見ながらふとあることを思い出した。


< 326 / 340 >

この作品をシェア

pagetop