俺様編集者に翻弄されています!
「何が不安だって?」


「ひっ!」


 悠里は不意に背後からかけられた低い声に驚いて携帯を切った。振り向くと氷室がすぐ間近で不思議そうに悠里を見下ろしている。近くで見れば見るほどその整った顔立ちに悠里の心臓が妙な高鳴りを覚えた。


「ふぅん、北村さんが言ってた新しく担当する小説家って、やっぱりお前のことだったんだな、高峰悠里ね」


 氷室が一瞬ふわりと笑った。先ほどまでの勝気な雰囲気とは打って変わって、そのやわらかな部分に悠里の目がとろんとなりかける。

(わ、笑った! あぁ~王子様が降臨しそう……)

 
 笑うとまるで脳が溶かされてしまうのではないかというような氷室の笑顔に何も言えなくなってしまった。


「付き添いはここまででいいから、お前は帰れ」


「へ……?」


「だから、付き添いとかもういいから帰っていいって言ってんだよ」

 天国から地獄へ突き落されたような気分とは、きっとこういう時のことをいうのだろう。

 悠里は一気に冷水を浴びせられたような気持ちになり、言葉を失った。


「わかりました。不束者ですが、よろしくお願いし―――」


 その時、氷室が手のひらサイズの紙袋をぶっきらぼうに悠里の目の前に突き出した。
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