俺様編集者に翻弄されています!
 せっかくの気持ちのいい朝に、とんだ邪魔が入って氷室は冷めた気持ちになりそうだった。

 そんな気持ちをかき消して、氷室は傍らで小さな寝息を立てて熟睡している悠里の額に軽く口づけた。


 身体を重ね合わせるたびに気持ちが増幅して、時々仕事にも支障がでそうなこともある。

 そんな氷室の姿をナママや北村は、冷やかしたりして笑っているが、何故かそれがこそばゆくて不思議と嫌ではなかった。


 悠里の身体に初めて触れたあの夜、今までに味わったことのない感覚に、やっと自分で自分を認めることができたような気がした。


 ニューヨークを離れる前に、悠里から何故あの時ハドソン川にいたのかとふと尋ねられた。


「愛の力だ」


 と、寒イボが立ちそうな台詞で流したが、あの時悠里と出会えたのは本当に偶然だった。


 途方にくれてベンチに座っていたら、向こうでアジア人女性が絡まれているみたいだったと、会話しながら目の前を通り過ぎようとした若い男女に、気がついたら胸ぐらを掴んでその場所を問いただしていた。

 あの時の必死な自分が笑えてくる。けれど、一生に一度は必死になって何かを求めるのも悪いくないと、氷室は今ならそう思えた。



「やっと原石から宝石になったな……いや、まだか」


 氷室はそう言いながら悠里の腰のラインを指でなぞった。


 脱がせてみたら予想以上にクセになりそうなしなやかな肌と艶を含んだその声に、男としての獰猛な本能を刺激されずにはいられなかった。



 綺麗だ―――。



 そう思っているのに、いつも反対のことを言ってしまう。けれど、この身体はもっといやらしくなる―――。


 そんなことを思っていると悠里の瞼が小さく揺れた。


「……ん、氷室さん?」


「ああ、起きたのか」


「氷室さん、今日は仕事休みなんですか?」


 悠里はまだ微睡みが抜けず、眠い目を擦りながら時計を見た。

 時計の針はもうすぐ正午を指そうとしているところだった。


 ずいぶんぐっすり熟睡してしまったような気がする。


 頭が次第にクリアになってくると、ベッドの周りに散乱した衣服が目に入る。そして昨夜のことを思い出すと一気に眠気が醒めた。

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