俺様編集者に翻弄されています!
(もう全部聞こえてます……地味で結構)


 悠里は内心でそう思いながら俯いてエレベーターに乗った。


 今日も気づけば縁有りの眼鏡に、髪の毛は大雑把に後ろで束ねてジーンズにスニーカーだ。加奈には散々イモっぽいとからかわれたが、気の置けない仲だったから特に気にしていなかった。


 けれど、もうそんな悠里を笑って許してくれる加奈はいない。


(こんなペンだこのある指じゃ、指輪もマニキュアも似合わないよ……)


 悠里は小説家の勲章であるペンだこをずっと誇らしく思ってきたが、先ほどの受付嬢の白魚のような手を思い出すと、ペンだこが疎ましく思えてならなかった。

(いつか自分もお洒落して出かけてみたい、けれどきっと自分には似合わないだろうな……)


 悠里は自分の指をなでながら、そんなことを悶々と考えていると四階のミーティングルームに着いた。



 編集部はいつもざわついていている印象だった。加奈と打ち合わせる時はカフェテリアかこのミーティングルームをよく使っていたのを思い出す。


 悠里が上着を椅子の背もたれにかけたところで部屋のドアが開いて、あの男が入ってきた。
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