俺様編集者に翻弄されています!
「ただいまぁ! パソコン! パソコン!」


 悠里は転がる勢いで家に帰ると、すぐさまパソコンを立ち上げた。



 新作のタイトルは「忘我の愛」



 時は大正末期―――。

華族制度の真っ只中、帝国軍人の伯爵家に使える女中を主人公としたストーリーで、列強が忍び寄るダークな背景の中で、ドロドロとした愛憎劇を取り入れた話を思いついたのだ。

 始めに考えていた確執のある家柄同士の抗争の中の恋愛は、確かに氷室の言う通り展開が読めてしまう。

(だからあのプロットだめだったんだな……)

 今考えると、破り捨てられて当然だった。氷室はそこまで見通していたのだと思うと、悠里は氷室の編集者としての力量を痛感する。


 悠里は新作の登場人物の設定と、プロットをもう一度ひねり直して、気がついた時には、かなりの文字数になっていた。

(今度こそ氷室さんにOKもらわなきゃ……)

 悠里は意気込んで何度も何度もプロットを見直しては書き直し、無我夢中になって全て仕上げた。
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