【完】ヒミツの恋を君と。
「は、春、あ、あのね………」


「なんで何も言わずにいなくなったんだよ!携帯かけても解約してあるし!」


「……ご、ごめ……」


「悲しかったよ……」





春の言葉があたしを責める。

自分のした事がどれだけ最低なことだったのかを思い知らされる。





「俺よりも、春華の方が、ボロボロになるまで悲しんでるよ」


「……っ!?」





春華──

その名前に切り裂かれるほどの痛みに襲われて、気付けばあたしはその場から逃げ出していた。





「吉丘!」





春の呼び止める声が駅構内に響く。

振り向けない。



あたしはまたこうやって、春と春ちゃんから逃げるんだ?

あの日、あの言葉を聞いてしまった日から、あたしは2人の顔をまともに見れなくなった。





『俺、春華のことが好きだ』





春は、あたしじゃなくて春ちゃんを好きになった。


春ちゃんは可愛いし、優しい。

だからそれは、当然のこと…。


あたしは春のことが好きなくせに、綺麗になろうと努力することも、告白する勇気すらもなかった。



だから、それはただのあたしの嫉妬。

その辛さから逃げて、自分を守ろうとしたあたしは最低だ。



今もまた逃げてる。

…でも逃げたって、もともと運動が苦手なあたしが春の足に勝てる訳がなくて、





「吉丘っ!」


「…っ!?」





駅の改札前の大きな柱の前で、春に腕を掴まれて、足を止められた。

もう、顔をまともに見れない。



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