【完】ヒミツの恋を君と。
春──



春とあんなとこで偶然に会うなんて思っても見なかった。



長い髪を適当に束ねてサイズの合わない眼鏡をかけた以前のあたし。

今は髪も切って、眼鏡からコンタクトに変えてる。





…でも、春は一瞬であたしだと気付いた。


切ない気持ちがまた襲ってきて、あたしの胸に痛みを与える。





その痛みに耐えられなくて過去に蓋をしてきたあたし。



春と春ちゃんのことを考えることが怖かった。



でも不思議と晴の隣では、2人のことを冷静に思い出せる。





どうしてかな?

ちらっと隣で歩く晴のその横顔を見上げる。



晴は今、何を考えてる?



あたしの視線に気付いたのか、晴がこっちを向いた。




ドキッと跳ねるあたしの心臓。


晴が足を止めて、あたしも立ち止まった。





「…あいつが“春”だよな?」


「あ、う、うん」


「お前が俺に重ねてたのって、あいつだったんだな?」


「えっ?」





晴はそう言ってから、また前に向きなおして歩いて行く。


『重ねてた』?


晴の言葉に、一瞬言葉を失った。






家まであと少し。

暗い住宅街で道を照らす光は街灯だけ。





立ち尽くしたままでいるあたしを、晴が振り向いた。


その表情はよく見えない。

晴からもきっとあたしの表情は見えてない。




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