【完】ヒミツの恋を君と。
違うよ。

あたしだけじゃない。


店であたしに触れるのは、店長命令みたいなものだし、この間、春に偶然出会った日にあんな風に慰めてくれたのは、弱ったあたしをほっておけなかった晴の優しさ…。



そしてまたふと思い出してしまった。

あの日、晴に腕を回して自分の方に引き寄せてた彼女の言葉。





『……晴くん、こっち見てよ。慰めて』





その『慰めて』の意味がなんなのか、そういう経験なんてないあたしでも、それが何を意味するのかぐらいは知ってる。



晴は、あの日彼女を……?





「おい!」


「はいっ!?」


「お前またボーッとしてる。何度同じ所、拭いてるんだよ?」


「あ…」





晴が盛大に溜息を吐いてから、もっとあたしに顔を近付けて来る。





店中に「キャ──!」という歓喜の声が上がるけど、晴はそれを意識してる様子はなく、小さな声であたしに言った。




「……お前さ、早く復活しろよな」


「え?」




も、もしかして、あたしが落ち込んでる原因に気付いてるの!?

びっくりして顔を跳ね上げると、晴はバツが悪そうにあたしから視線を逸らした。




「自分をフッた男のことなんて早く忘れろって言ってるんだよ」


「えっ?あ…びっ、びっくりした…そっちか…」


「は?」


「う、ううん…なんでもない」




晴はどうやら、あたしが春にフラれたことで落ち込んでると思ってるみたいで。

そう言えば、春への気持ちはもう過去だって話してない。



晴が知ってるのは、あの日あたしが春にフラれたって事実だけ。


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