サラリーマン太郎の勇者日記
「ヒロシ、だいじょうぶか」
ヘルギくんがお兄ちゃんを支えている姿が見える。
戻ってきたんだ。
鏡の通路を抜けると、あの殺風景な世界が目の前に広がった。
森はところどころ焼けているし、すすだらけだ。
だけど、とても安心できた。
ヘルギくんや兄ちゃんがいたからだろう。
「太郎!? なぜ戻ってきたんだ」
「俺が、クロノに頼んだのさ。このままにしておけないよ」
ヘルギくんは私の顔を見て、よかった、とひとこと漏らす。
その表情は和らぎ、戦士としての自分をしばし忘れているかのようでもあった。
「俺のことより、お兄ちゃん、どうしたの」
「お前を魔法で飛ばした後、足をくじいたらしい」
ヘルギくんが言った。
「それにしても忌々しい悪魔め」
ヘルギくんがグラムを構えた。
「タローが無事とわかったんだ、思う存分やらせてもらうぞ」
「そいつは、はたしてどうだろうか」
クロノは私に黒く染まったナイフを突きつけた。
どす黒い汚れは・・・・・・血痕?
数多の命を削り取ってきた証だろうか。
かすかに血のにおいがした。
「へたなことをしてみろ、タローの命はないぞ」
「てめえ、どこまでも汚いな!」
ヘルギくんが叫ぶと、クロノはいかにも悪魔らしく高らかに笑った。
「だから悪魔なんだよ。ランゴバルドも捨て駒にちょうどよかった。さて、次はこいつだな」
クロノが念じると、地面が盛り上がった。
「おわっ、なんだ?」
私は、それを見たとたん、胸がきゅうんとしめつけられた。
その地面から蘇ったのは――。
「シグルズ隊長・・・・・・」
だったのだから。
ヘルギくんは地面へつばを吐いて、
「やっぱり、鬼畜だったな、貴様は。クロノ!」
とほえた。
「なんとでもどうぞ。さあ、戦え、皆殺しにしろ」
私はクロノがなぜこんなことをするのか、はなはだ疑問だった。
やめて欲しかった。
骸が、戦うなんて、そんなこと!
「不思議か、太郎」
クロノは語りかけてくる。私は彼を見上げ、やめさせるよう願った。
「そうそう、願えばいいんだ。お前のような、ただの道具もちはな」
道具もち・・・・・・。
その単語が、私に何かを与えた。
昔から荷物もちにさせられ、いじめられてばかりだったっけ。
悪魔にもわかってしまうのかな、そういう弱いところが。
だから妻は・・・・・・だから妻は・・・・・・。
あんななんだよーっ!!
「いって欲しくないことを、よくもいったなぁっ!」
私はこみ上げてきた怒りをゲージに変え、クロノにアタックした。
「なにっ、キサマッ」
クロノは意外な反応を見せた。
というか、おとなしいはずの私が、いきなり暴れまわるものだから、きっと対応が遅れたのだろう。
顎の骨が砕ける音がした。
「やった、タロー、お前強いな」
ヘルギくんが鼻をこすった。
だが、隊長の骸は?
クロノが気絶した今、どうやら動くことはできないらしい。
だけど・・・・・・私は、それをするのがこわかった。
「やれ」
とヘルギくんいいわれても、手が震えてなかなかできなかった。
彼の遺体を荼毘に移し、火をつけて火葬するのだという・・・・・・。
豪快で意地悪だったが、悪い男ではなかった。
私は隊長のことを忘れないよ。
やっと火をつける決心をし、立ち上る煙に誓うのだった。
ヘルギくんがお兄ちゃんを支えている姿が見える。
戻ってきたんだ。
鏡の通路を抜けると、あの殺風景な世界が目の前に広がった。
森はところどころ焼けているし、すすだらけだ。
だけど、とても安心できた。
ヘルギくんや兄ちゃんがいたからだろう。
「太郎!? なぜ戻ってきたんだ」
「俺が、クロノに頼んだのさ。このままにしておけないよ」
ヘルギくんは私の顔を見て、よかった、とひとこと漏らす。
その表情は和らぎ、戦士としての自分をしばし忘れているかのようでもあった。
「俺のことより、お兄ちゃん、どうしたの」
「お前を魔法で飛ばした後、足をくじいたらしい」
ヘルギくんが言った。
「それにしても忌々しい悪魔め」
ヘルギくんがグラムを構えた。
「タローが無事とわかったんだ、思う存分やらせてもらうぞ」
「そいつは、はたしてどうだろうか」
クロノは私に黒く染まったナイフを突きつけた。
どす黒い汚れは・・・・・・血痕?
数多の命を削り取ってきた証だろうか。
かすかに血のにおいがした。
「へたなことをしてみろ、タローの命はないぞ」
「てめえ、どこまでも汚いな!」
ヘルギくんが叫ぶと、クロノはいかにも悪魔らしく高らかに笑った。
「だから悪魔なんだよ。ランゴバルドも捨て駒にちょうどよかった。さて、次はこいつだな」
クロノが念じると、地面が盛り上がった。
「おわっ、なんだ?」
私は、それを見たとたん、胸がきゅうんとしめつけられた。
その地面から蘇ったのは――。
「シグルズ隊長・・・・・・」
だったのだから。
ヘルギくんは地面へつばを吐いて、
「やっぱり、鬼畜だったな、貴様は。クロノ!」
とほえた。
「なんとでもどうぞ。さあ、戦え、皆殺しにしろ」
私はクロノがなぜこんなことをするのか、はなはだ疑問だった。
やめて欲しかった。
骸が、戦うなんて、そんなこと!
「不思議か、太郎」
クロノは語りかけてくる。私は彼を見上げ、やめさせるよう願った。
「そうそう、願えばいいんだ。お前のような、ただの道具もちはな」
道具もち・・・・・・。
その単語が、私に何かを与えた。
昔から荷物もちにさせられ、いじめられてばかりだったっけ。
悪魔にもわかってしまうのかな、そういう弱いところが。
だから妻は・・・・・・だから妻は・・・・・・。
あんななんだよーっ!!
「いって欲しくないことを、よくもいったなぁっ!」
私はこみ上げてきた怒りをゲージに変え、クロノにアタックした。
「なにっ、キサマッ」
クロノは意外な反応を見せた。
というか、おとなしいはずの私が、いきなり暴れまわるものだから、きっと対応が遅れたのだろう。
顎の骨が砕ける音がした。
「やった、タロー、お前強いな」
ヘルギくんが鼻をこすった。
だが、隊長の骸は?
クロノが気絶した今、どうやら動くことはできないらしい。
だけど・・・・・・私は、それをするのがこわかった。
「やれ」
とヘルギくんいいわれても、手が震えてなかなかできなかった。
彼の遺体を荼毘に移し、火をつけて火葬するのだという・・・・・・。
豪快で意地悪だったが、悪い男ではなかった。
私は隊長のことを忘れないよ。
やっと火をつける決心をし、立ち上る煙に誓うのだった。