サラリーマン太郎の勇者日記
 クロノは勝ち目がない、とでも思ったのだろうか。
 突然姿を消してしまった。
 ヘルギくんはざまあみろ、といっていたが、わたしはいや〜ぁな予感が拭い去れない。
 なんでかな、なんでだろう、なんでやねん!?
 兄は気にするなといっていたし、ヘルギくんも上機嫌だったし、私もそりゃ、そうしたい。
 そうしたかったけど、・・・・・・まず問題なことは・・・・・・。
 どうやって帰ればええねん!
「俺の魔法で帰してやるよ」
 お兄ちゃんが魔法を使おうと魔法円を描いた。
 でも、限界が来ていたらしい。
「はあっ、はあっ。だ、だめだ、ゲーティアも・・・・・・レメゲトンまでもが使えない・・・・・・」
 「そんな・・・・・・」
 ゲーティアとレメゲトンは、古代にさかのぼるとソロモンの時代に書かれた魔法書で、それらはほかにシジルとか呼ばれており、ようするに、悪魔や天使を呼ぶ魔法のことだ。
「もういいよ、お兄ちゃん」
「だけどお前にはラリ子さんが待っているだろう」
「ラリ子のことまで知っていたのか・・・・・・」
 お兄ちゃんを結婚式に呼べなかったのに。
 いや、あれは痛かったなぁ。
 ラリ子のヤツ、浮かれすぎて飲みすぎ、私を得意のジャイアントスイングで投げ飛ばしたんだから。強烈〜・・・・・・。
 三人で談笑していると、クロノが私を連れてきた穴から、なんと! ラリ子が現れたのだ!
「何でお前がここに!?」
 私の問いに答えず、ラリ子は鎌を構えた。
「おい、おい、あれがタローの? ぷーっ!」
 わ、笑わないでくだちゃいっ!
 ヘルギくんが大笑いし、お兄ちゃんまで笑いをかみ殺してラリ子を見ている。
 こらこら、あんたら、人のかみさんをなんだと思って!?
「た、タローなら、もっちっといい女つかまっただろうに、あひゃ、あひゃひゃひゃ。す、すげ、すげえデブでぶちゃいく!」
 むかつくっ!
「ほっとけ! ほっとけ! うわあああん!」
「笑っていられるのも今のうちよ。これから八つ裂きにしてあげ・・・・・・」
 ヘルギくんとおにいちゃんの笑い声は絶えない・・・・・・。
 ラリ子を怒らすぞ、このままだと、あああ、神様! 今まで信じなかったことを、どうか許してぇ〜!
 今だけ信じますからっ!
「死〜に〜く〜さ〜ら〜せ〜ぇぇぇ! おどりゃあああ、はあああっ」
 なんと! ラリ子はありえな〜い、ぶっちゃけありえな〜いことをしてみせやがった!
 口から凍りつくほどの冷気を吐き出したのだ。
なあ、なんかぱくってるよなぁ、これ!?
「ほほほほ、あでぃおす、あみ〜ご〜。クロノとかいう悪魔ちゃん、ステキね。あたいにこんな、上等の毛皮とか、宝石くれるんだもん。誰かさんの安月給じゃ、到底手に入らないわね」
 むっかっ。ああ、そうですねっ!? 
 さすがにきれちゃったもんね〜!
 私はお返しにおにいちゃんから魔法書を取り上げ、でたらめに本を開き、むずかしいラテン語とかギリシア語とかの呪文のスペルを唱えた。
「私はラリ子を愛していたんじゃない! その力に惚れていたのだっ! ええい、思い知れ、ふぁいや〜っ」
 クロノのヤツ、ラリ子まで使うなんて、ゆるせん。
「黒こげ、ダウン・・・・・・」
 ラリ子の最期の言葉だった。
 やった、ラリ子を倒したぞ! 痛恨の一撃で! 初めて勝てたんだ、ばんざーい!! 
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